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聖書協会共同訳聖書 10


パイロット版・聖書協会共同訳 ガラテヤ 


"・・・、この世のもろもろの霊力に奴隷とし仕えていました。"
(「聖書協会共同訳」)


 ガラテヤ4・3は誤訳に近い新共同訳から改善されています。


ὑπὸ (下に) τὰ (冠詞) στοιχεῖα (基礎原理・) τοῦ (冠詞) κόσμου (世) ἤμεθα (動詞・~いた) δεδουλωμένοι (分詞・彼らは奴隷的に拘束された) .

 ここでストイケイオン(στοιχεῖον)をどのように解釈して訳するかで違いが出て来ます。まずは主な訳を見て行きましょう。

大正改訳
"世の小學の下にありて僕たりしなり。"

口語訳
"いわゆるこの世のもろもろの霊力の下に、縛られていた者であった。"

共同訳
"この世を支配する霊に奴隷として仕えていました。"

新共同訳
"世を支配する諸霊に奴隷として仕えていました。 "

新翻訳事業パイロット版
"世界の“諸要素の下に服従していました。"

新改訳(第一版から第三版)
"この世の※幼稚な教えの下に奴隷となっていました。"
"※ 別訳「霊力」または「原理」"

新改訳2017
"この世の※もろもろの霊の下に奴隷となっていました。"
"※ 別訳「幼稚な教え」「原理」。9節も同様"

フランシスコ会訳11年合本版
"宇宙の構成に携わる諸霊に、奴隷として仕えさせられていました。"

ラゲ訳(1910年版)
"世の小學の下に事へつつありき。"

田川訳
"宇宙の諸元素のもとに従属せしめられていた。"

岩波書店新約聖書翻訳委員会訳
"宇宙の諸力のもとで奴隷状態にさせられてしまっていた。"

詳訳
"外面的な慣習<諸規定>の体系の初歩的な教えの下に<に服して>いました。"

Luther Bibel 1545
"waren wir gefangen unter den äußerlichen Satzungen."
"外的な定めに捕らえられていました。"
(「宗教改革500年記念出版 ルター訳ドイツ語聖書 ガラテヤ人への手紙 1522年9月聖書—原文・邦訳と解説—」 徳善義和 訳・解説 日本聖書協会 p.15)

 みんなそれぞれストイケイオンの解釈が違っているため翻訳も多様となっています。続いてストイケイオンについてギリシャ語の辞典を見てみましょう。

"στοιχεῖον, -ου, τό:〖日時計の影,(語る言葉の最も簡単な要素)α,β,γ ・・・の音,(またその)文字〗 ⦅新約では複数形(辞典では複の囲み文字)⦆①初歩,基本;ヘブ5・12. ②基本的構成要素,原素;(この世界の)Ⅱペテ3・10(③も可能). ③天体,星辰; ④原素霊(地・水・風=空気・火の諸原素や天体を霊的存在と見てこれを礼拝した);ガラ4・3(①にも解される)."
(「増補・改訂 新約ギリシャ語辞典」岩隈直著 山本書店 p.437)

これを見ますと、①の解釈に立っているのが、明治元訳・大正改訳・ラゲ訳、新改訳(第一版から第三版)、詳訳などです。②に立っているのが新翻訳事業パイロット版。③・④に立っているのが口語訳・共同訳・新共同訳・聖書協会共同訳・新改訳2017・フランシスコ会聖書研究所訳・田川訳・岩波書店新約聖書翻訳委員会訳です。

ちょっと脱線ですが、ニコライ訳は「現行」(げんぎょう)と訳されていました。コトバンクで見てみますと、
"仏教用語。唯識説によると,人間の心の根底をなす普遍的な本識である阿頼耶識には,この世の一切のものを生じる原因としての種子 (しゅうじ) が蔵されているが,この種子より生じた事象を現行といい,その現象を種子生現行という。生じた現行が必ず新しい種子を阿頼耶識のうえに付加することを現行熏種子という。"
という意味の言葉で、ニコライ大主教の補佐を務めた漢学者中井木菟麻呂による面白い訳語の選択です。


さて、話を戻して、田川訳の注とフランシスコ会聖書研究所訳の注は、共に詳しく説明がなされているので役立ちます。

"3 諸元素 単語そのもの(stoicheion の複数形)の意味は「諸要素」。「列」という語(stoichos)から派生した語で、本来は、列の中に並んでいる個々の要素を指す。列の中には小さいもの(要素)がずらっと並んでいる。というところから、転化して、列と関係なしに単に「個々の要素」を意味するようになった。しかしこの語はすでに非常に古い時代から一種の学術用語として用いられるようになり、物質の構成要素を分割していって、これ以上分割できない最小単位の要素を指すようになる(御存じエンペドクレスの「四元素」など)。従って現代科学の用語を用いるのであればむしろ原子とか分子とか呼ぶ方がよろしかったか。しかしこの時代になるとこの語はもう一つ転化して、宇宙に漂う、人間にはよくわからない不可思議な元素などを指すのに用いられることが多くなった。星辰はそういう元素だと思われた。古代のことだから、星に輝く星などは何だかわけのわからない存在であって、下界に生きる人間たちにさまざまな不可思議な力を及ぼすと考えられていた。それもたいていは悪い影響である。不可思議な「元素」が不可思議な力を下界に照射する、といった感じ。従って実質的には霊的な力とよく似ている(「霊」もまた、空中に漂う目に見えない不思議な存在と考えられていた)。従ってこれを口語訳のように「霊力」と訳するのは、実際に指しているものからすれば正しいが、直訳する方が古代人の宇宙観、物質観がわかって面白かろう。しかしこれを新共同訳のように「諸霊」と訳してしまうと、すでに誤訳の部類である。単に「霊」というと、宇宙の星辰よりは人間にとってずっと身近な存在である(なお、この語と同根の動詞stoicheoは、これとはまた違って、独特の意味を持つ。五・ニ五の「霊の側に並ぶ」の注参照)。
 宇宙の諸元素のもとに従属せしめられていた まあ「宇宙」でなく「世界」と訳してもかまわないがここは現代語で言う宇宙のこと。口語訳「いわゆるこの世のもろもろの霊力の下に、縛られていた」。「いわゆる」が余計。「この世」もおかしい。また「縛られていた」は奇妙。単に奴隷として従属していた、というだけのこと。新共同訳の「世を支配する諸霊」もかんばしくない。「宇宙の」は「宇宙の中にいる」ぐらいの意味であるから、その一単語を「世を支配する」と言い換えてしまうと、だいぶ違ってくる。何せ新共同訳は原文にない「支配」だの「命令」だのを持ち込むのがお好き。"
(「新約聖書 訳と註 3 パウロ書簡 その一」 田川建三訳著 作品社 pp.190-191)

"(1) 「宇宙の構成に携わる諸霊」とここに訳出したギリシア語の句は、多様に解釈されている。この術語はコロ2・8、20にも見られ、また本章9節では「あの無力で何の助けにならない『諸霊』」という形で出る。本句は前節の「後見人」や「管理人」に符合し、また、コロ2・8・20ではキリストと対比されていると考えられるので、「霊的存在者」と解するのが適当と思われる。当時は「霊的存在者」が、諸元素や天体や各民族全体を支配すると考えられていた(たとえば黙16・5の「水を司る使い」、ダニ10・13-21参照)。また、天体そのものが霊的存在だとも考えられていた(ユダ13節、またエフェ3・10、6・12参照)。特に天体との関係があるとみなされた場合は、人間の祭儀執行のための「日、月、季節、年」を司どると考えられていた(10節参照)。"
(「聖書 原文校訂による口語訳 フランシスコ会聖書研究所訳注」2011年版 サンパウロ p.513 )

今回の改訂で、翻訳の悪いところばかりが目立ちますが、少ないとはいえ改善もなされていることがわかります。




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Author:athanasius
当ブログにおいて、キリスト教関係の記事などにつきましては、あくまでもわたしの信仰や所属する教派・教会の教義的な私個人の立場から、わたしがおかしい、納得できない、ウソだろう、こうではないか、なとなどの批判・批評、否定、または合意、賛同などを書いています。また他宗教については個人的な感想として書いています。ある人にとってはとても不快に思ったり、反対意見もあると思います。その場合、広い心でお読みください。また、人の考え方は不変なものではありません。過去の発言と現在の発言が変わったりするのも自然なことですのでご留意ください。

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