fc2ブログ

イザヤ書34章14節


 聖書協会の翻訳した戦後の聖書 ( 口語訳・新共同訳・聖書協会共同訳 ) を通読してみても、あまり琴線に触れるようなことばには出あわないというのは残念です。自分あたりは最初聖書にふれたのは口語訳でしたので、聖書の言葉を思い出すにしても口語訳で思い出してしまうので、コンコルダンス ( 聖書語句索引 ) も口語訳用のものを使わないと捜している個所に行き着き辛かったりします。しかし、それと琴線に触れるかどうかは別な事で、正直あまり聖書協会の訳からは元気をもらえない感じがします。

口語訳・新共同訳・聖書協会共同訳 URL


 今回気になったのが、イザヤ書34章、神の敵であるエドムへの審判が語られている個所ですが、その14節の言葉において、聖書協会の訳と新改訳の違いと他の翻訳についてちょっと見てみたいと思います。

 まずは聖書協会の戦後訳から


口語訳
14 野の獣はハイエナと出会い、鬼神はその友を呼び、夜の魔女もそこに降りてきて、休み所を得る。

新共同訳
14 荒野の獣はジャッカルに出会い/山羊の魔神はその友を呼び/夜の魔女は、そこに休息を求め/休む所を見つける。

聖書協会共同訳
14 ハイエナはジャッカルに会い/山羊の魔神はその友を呼び/夜の魔女はそこで休息し/自分の憩う場を見つける。



 裁かれて荒廃し、かつて人が住んでいた跡に、野生動物や魔神・魔女が憩うようになるという神話的な叙事詩、幻想的、空想的な表現の訳になっています。

 これとは対照的というのか新改訳 ( 欄外注も併せて引用 ) では、


新改訳(第一版、第二版、第三版)
14 荒野の獣は山犬に会い、野やぎはその友を呼ぶ。そこには*こうもりもいこい、自分の休み場を見つける。

*別訳「悪鬼」

新改訳2017
14 荒野の獣は山犬に会い、野やぎはその友を呼ぶ。そこには夜の鳥も憩い、自分の休み場を見つける。


 戦後聖書協会訳とは異なり、現実的な荒廃が描かれています。

 聖書協会訳では「鬼神・山羊の魔神」と訳され、新改訳では「野やぎ」と訳されているsa'iyr(שָׂעִיר)ですが、旧約で59回出てくる言葉で、「山羊、雄山羊、野やぎ、毛深い」という意味が大半で(生贄の山羊で使われている)山羊の偶像の意味では、文脈からレビ記17:7と歴代誌下11:15の二か所が、「金の子牛像」と共に祀られていた「雄山羊」(の像)であるとわかるぐらいで、イザヤ書のこの個所と13:21はそれを暗示するようなものは見られません。もちろんヘブライ語底本に「魔神」だの「鬼神」だの「偶像」だのの言葉はありません。

 まず他の日本語訳ではどう訳しているのか見てみたいと思います(欄外注のあるものは合わせて引用します)。


フランシスコ会訳2011年合本版
14 荒れ野の獣は山犬に遭い、雄山羊の姿をした魔神が互いに呼び合う。リリトがそこで休み、自分のために休息の場所を見出す。⑹

⑹ 「雄山羊の姿をした魔神」「リリト」は、魔物として出る。「雄山羊の姿をした魔神」については、13・21と注7参照。「リリト」は、本箇所にのみ出る。元来はメソポタミアの伝承の嵐の悪魔であったらしい。この名がヘブライ語の「夜」(ライェラ)と似ているため、パレスチナでは夜の魔女とされるようになり、ユダヤ伝承の多くの伝説に出てくる。本節の「荒れ野の獣」「山犬」と訳したあまり使われない語も、普通の動物ではなく悪魔や小鬼と理解する者もいる。

関根正雄訳 「イザヤ書 上」(岩波文庫)
14 山猫と山犬は共に会い、サテュロスは互いに呼びかける。そこにはリリースが休み場を得、おのれのために休み所を見出だす。

巻末注
12節 「サテュロス」 元来森にいる半人半獣の動物又はデーモンでギリシャ語のサテュロスに近いので、この語を用いた。
14節 「リリース」 砂漠にいるデーモンの名。

岩波書店聖書翻訳委員会訳
14 荒野の獣たちは山犬たちと出会い、野山羊はその友を呼ぶ。そこには夜の魔女⑸も憩い、己のために休み場所を見つける。

⑸ 原語リリトは、メソポタミア起源の女のデーモン。ヘブライ語のライル(夜)と発音が似ているため、夜の魔女と解された。

リビングバイブル(1993年改訂版)
砂漠の野獣が山犬といっしょになり、その遠吠えが夜通し聞こえます。夜の怪物は不気味な叫び声をあげ、悪鬼がそこを休み場にします。

リビングバイブル
14 荒野の野獣が山犬といっしょになり、その遠吠えが夜通し聞こえます。夜の怪物はぶきみな叫び声を上げ、悪鬼がそこを休み場にします。


 カトリックの訳はウルガタ訳聖書の影響があるように感じます。関根正雄訳は「サテュロス」と訳しているのは七十人訳の影響かもしれません。

 七十人訳ギリシャ語訳聖書とラテン語訳ウルガタ聖書も見てみましょう。七十人訳は秦剛平氏の日本語訳、ウルガタはウルガタから訳された光明社版を合わせて見てみましょう。


SEPTUAGINTA
14 καὶ συναντήσουσιν δαιμόνια ὀνοκενταύροις καὶ βοήσουσιν ἕτερος πρὸς τὸν ἕτερον ἐκεῖ ἀναπαύσονται ὀνοκένταυροι εὗρον γὰρ αὑτοῖς

秦剛平訳 「七十人訳ギリシア語聖書 イザヤ書」
14 悪霊たち(ダイモニア)₂₆はオノケンタウロスどもに遭遇する。彼らは互いに相手に向かって鳴き声を上げる₂₇。そこにオノケンタウロスどもが憩う。自分たちの憩い(の場所)を見つけたからである。

₂₆ へ→「荒野の獣たち」。
₂₇ へ→「野山羊はその友を呼ぶ」。
₂₈ へ→「リリトはそこに憩い」。リリト(リリツ)は夜の魔女。

Biblia Sacra Vulgata
14 Et occurrent daemonia onocentauris, et pilosus clamabit alter ad alterum; ibi cubavit lamia, et invenit sibi requiem.

光明社旧約聖書
14 悪霊怪物 相会い、毛深きもの互いに啼き交すべし、魔女そこに臥して己が安息(やすらい)を得たり。⑼

⑼ 本13・21とその註参照。


 ここで関根正雄訳の「サテュロス」がヘブライ語sa'iyrの山羊という意味からもギリシャ神話やローマ神話の頭には山羊の角を持ち、上半身が人間で下半身が山羊の姿をした精霊「サテュロス」としたのには、七十人訳の「オノケンタウロス(オノス(ロバ)+ケンタウロス)」という半人半驢馬の生き物としてこの個所で出てくるのでそれと何か関係があるのかなと思ってしまいます。

オノケンタウロス


 オノケンタウロスについては二世紀から三世紀にかけてのローマ帝国の著述家クラウディオス・アイリアノスがギリシャ語で書いたΠερὶ ζῴων ἰδιότητος(邦訳:「動物奇譚集」(二巻本) 中務哲郎訳 京都大学学術出版会)にどのような生き物と考えられていたのかが出て来ます(第二巻 pp.313-314)。一応Wikipediaも Onocentaur

七十人訳ギリシア語聖書イザヤ書、動物奇譚集第2巻 URL


 ウルガタ訳は七十人訳と同様にデーモン・オノケンタウロとしています。日本語訳は「悪霊怪物」にしちゃってますね(笑)。そしてリリトの方は誘惑する怪物ラミア(神話の方のラミアではなく、後代に意味合いが変化した方、羅英辞典「Elementary Latin Dictionary」なんかを見ますとウィッチ(魔女)、ソーサリー(魔法使い)などと出て来ます。)にしています。

 古代訳の七十人訳とウルガタの影響はルター訳や、ルター訳に影響を受けた英訳聖書にも流れていると見えます。

Luther Bibel 1545
14 Da werden untereinander laufen Wüstentiere und wilde Hunde, und ein Feldteufel wird dem andern begegnen; der Kobold wird auch daselbst herbergen und seine Ruhe daselbst finden.

 ルター訳ではリリトやラミアはコボルト Kobold になっています。コボルトは "〖民族〗コーボルト(姿はこびとで、人をからかったりいたずらをして、怒らせるとひどい仕返しもするが人助けもする要請)。"(「クラウン独和辞典 第二版」三省堂)というものです(RPGゲームなんかでは昔から、リリトも、ラミアも、コボルトもよく見かけます(笑))

 続いておもな英訳を古い順から


Great Bible
14 There shall straunge visures and monstruous bestes mete one another, and the wylde kepe company together. There shall the lamia lye, & haue her lodging.

Matthew Bible
14 There shall straunge visures and monstruous beastes mete one another, and the wilde kepe companye together. There shall the lamya lye, and haue her lodginge.

Coverdale's Translation of the Bible
14 There shal straunge visures and monstruous beastes mete one another, & the wylde kepe company together. There shal the lamia lye, & haue hir lodginge.

King James Version
14 The wild beasts of the desert shall also meet with the wild beasts of the island, and the satyr shall cry to his fellow; the screech owl also shall rest there, and find for herself a place of rest.

Revised Version
14 And the wild beasts of the desert shall meet with the wolves, and the satyr shall cry to his fellow; yea, the night-monster shall settle there, and shall find her a place of rest.

American Standard Version
14 And the wild beasts of the desert shall meet with the wolves, and the wild goat shall cry to his fellow; yea, the night-monster shall settle there, and shall find her a place of rest.

Revised Standard Version
14 And wild beasts shall meet with hyenas,the satyr shall cry to his fellow;yea, there shall the night hag alight, and find for herself a resting place.

New Revised Standard Version
14 Wildcats shall meet with hyenas, goat-demons shall call to each other; there too Lilith shall repose, and find a place to rest.

New International Version
14 Desert creatures will meet with hyenas, and wild goats will bleat to each other; there the night creatures will also lie down and find for themselves places of rest.

New King James Version
14 The wild beasts of the desert shall also meet with the [e]jackals, And the wild goat shall bleat to its companion; Also [f]the night creature shall rest there, And find for herself a place of rest.

Green's Literal Translation
14 The desert creatures shall also meet with the howlers; and the shaggy goat shall cry to his fellow. The screech owl shall also settle there, and find a place of rest for herself.

Good News Translation
14 Wild animals will roam there, and demons will call to each other. The night monster[b] will come there looking for a place to rest.
b.Isaiah 34:14 A female demon, believed to live in desolate places.


 聖書協会の訳は悪い意味で伝統的。英訳聖書(英米の聖書協会)の翻訳に右へ倣えな感じがします。

 「山羊の魔神はその友を呼び」と聖書協会の訳者はしますが、彼らにとって山羊の魔神なるものは生きた存在なのでしょう。前述した旧約の二か所では、聖なる高台に祀られた「金の子牛」の偶像と「雄山羊」の偶像であって、互いに呼び合うような生(なま)な存在ではありません。しかし、聖書協会の訳ですと、生きて存在する魔神が互いに呼び合っていることになります。

 リリトについてもフランシスコ会訳の注のような「パレスチナでは夜の魔女とされるようになり、ユダヤ伝承の多くの伝説に出てくる。」や岩波書店聖書翻訳委員会訳のいうような「メソポタミア起源の女のデーモン」なのでしょうかね。ラテン語のラミアが神話の女性ラミアから誘惑する淫靡な魔女に意味合いが変わったように、リリトの語も意味合いがメソポタミアのそれとは変わっていることも考えられるでしょう。

Baphomet(モザイク)とBuddy Christ
(「山羊の魔神」になぞらえてバフォメット像を使って、Buddy Christ像がそれを笑っているように配置してみた)

***

追記 2022/07/29

この記事へのアクセス数がすごくあったのでちょっと検索して見たら

オミクロン株の亜種「BA.2.75」、通称「ケンタウロス」とそれを聖書と絡めた陰謀論系のものが二三出てきた。

おそらく七十人訳聖書ギリシア語聖書の「オノケンタウロス」の訳語を「ケンタウロス」と関連付けたものだろうが、両者は違うものだし 笑

ユダヤ原理主義者やキリスト教原理主義者が聖書の通り世界を作ろうとしている云々など、キリスト教やユダヤ教について知っている人ならおなかを抱えて笑ってしまうだろうな~

キリスト教徒が用い、その教義の根拠としていた七十人訳聖書ギリシア語聖書は、ユダヤ教は一世紀末のヤブネ会議でこれを旧約聖書外典などのギリシヤ語文書とともに排除しているし、キリスト教原理主義の福音派や聖霊派などはヘブライ語の旧約聖書にこだわっていて、カトリックや正教会などの教会が用いている七十人訳聖書ギリシア語聖書やラテン語訳ウルガタ聖書を拒絶しているから言っていることが根本的に間違っているんだけどねw

あと、バール神(バアル神を彼らは英語読みのバールと書くことが多い)を山羊の姿を持つものとして画像なんかを貼っているが、いやいやいや、それ牡牛の姿をしたモレク神だろ。というツッコミを入れたくなるものもみられ、スピリチュアルな方は見える世界が違うのだろうな~とある意味感心してしまった。

下のモレク神の絵について「上のカナンのバール神の画像、現在は検索しても出てきません!」と書いてあったが、そりゃバアル神じゃないもの。モレク神で検索しないと出て来ないでしょうね。

モレク
(「Bible Pictures and What They Teach Us by Charles Foster」の中のモレク神の挿絵)

スポンサーサイト



プロフィール

athanasius

Author:athanasius
当ブログにおいて、キリスト教関係の記事などにつきましては、あくまでもわたしの信仰や所属する教派・教会の教義的な私個人の立場から、わたしがおかしい、納得できない、ウソだろう、こうではないか、なとなどの批判・批評、否定、または合意、賛同などを書いています。また他宗教については個人的な感想として書いています。ある人にとってはとても不快に思ったり、反対意見もあると思います。その場合、広い心でお読みください。また、人の考え方は不変なものではありません。過去の発言と現在の発言が変わったりするのも自然なことですのでご留意ください。

 Yahoo!ブログからの引っ越し記事内のURLはリンク切れをしているものがあります(気が付いたらものからインターネットアーカイブに保存されているのならウェイバックマシンURLなどに修正などしております)。


 役立った、良かったなどありましたら拍手ボタンを押していただけると嬉しい限りです。


​一応、特に聖書の引用表記のないものにつきましては、著作権の保護期間を過ぎている日本聖書協会の「口語訳聖書」(1​955​年版の旧約聖書、19​54年版の新約聖書)を使用させていただいています。後の改定された口語訳聖書と違い、一般に差別用語や不快語とされていしまった言葉がそのままですのでご注意ください。

最新記事
最新コメント
カテゴリ
検索フォーム
リンク